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「またくだらないことばっかりして!」は最高の褒め言葉だと思ってます。
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四月の海
ゴールデンウィーク間近の何でもない週末。
何となく海が見たくなって海岸線を車で走る。
午前二時の走行は対向車もなく、等間隔に続く街灯だけがこの世界の秩序を支配しているようだった。
助手席側の窓から見える夜の海は、全てを飲み込んでしまうかのようにただ大きくどっしりとそこに腰を下ろしている。

「嫌いになったわけじゃないけど、少し距離をおきましょう」
彼女はそう言って僕の元から離れていった。

アクセルを踏み込み車のスピードを上げる。
そのスピードに比例して窓の外の風景も放たれた矢の残像のようにぼやけていく。

僕は彼女を引き止めなかった。

車は薄い月明かりの下をさらに走る。
ゆるいカーブに差し掛かった時、前方の海の中に青白い光のようなものが見えた。
夜光虫だろうか。
近くに車を止め、降りて革靴のまま砂浜を歩く。
冬が忘れていったような冷たい海風が水平線の方から吹いてくる。
四月の海はまだ寒い。
彼女と付き合いだしてからはやめていた煙草をポケットから取り出し火をつける。
肺の奥のほうまで深く煙草を吸い込むと、それをゆっくりと吐き出す。
煙草の煙と共にいくつかの想いも吐き出され、夜の闇に消えていく。
数年振りに吸ったタバコは以前吸っていた頃の味とは違った味がした。
夜の海の静寂の中に波の音だけがやさしく響く。
それは永遠に回り続ける壊れたレコードのように、繰り返し繰り返しその音色を奏で続けている。
視線を沖の方へ向けると、まるで僕の心を映し出すかのように、夜光虫が青白い光を放って海面がゆらゆらと揺れていた。
by earll73 | 2009-04-18 23:34 | 散文
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