俺に与えられた時間は残り少ない。
2週間後には俺はもうこの世にはいないだろう。
しかし、俺が生きているうちに体に鞭を打ってでもある女を捜さなければならない。
それが俺の生きてきた証になるのだから。
長い間地下潜伏をしていた俺にはシャバの照りつけるような陽射しは眩しすぎた。
シャバは唸るような暑さで、この季節の申し子のような入道雲は、はみ出し者の俺を歓迎するはずもなく、ただただ近くて遠い空に夏の威厳を放って張り付いていた。
俺は今まで潜伏中に着ていた愛着のあるコートを脱ぎ捨て、なるべく目立たないように茶色のジャケットを羽織る。
シャバは危険に満ちている。
俺がシャバに出てきたことは奴らも気付いているだろう。
奴らに捕まったら一貫の終わりだ。
俺は奴らの包囲網をかい潜り、女を捜さなければならない。
しかし、俺には時間がない。
覚悟を決めた俺は、大声で女の名前を呼びながら街から街へと飛び回った。
それは呼ぶというより、叫び声に近かったかもしれない。
奴らに気付かれてしまうので、一つの場所に長時間滞在するわけにはいかない。
しかし、大声で呼びながらでないと俺の捜し求める女は見つからない。
そんなジレンマを抱えながら、ある時は都会のアスファルトの照り返しの中を、またある時は郊外の深々とした森の中を、そしてまたある時は肌に纏わる海風に揉まれながら海岸線の松林の中をと、至る所を放たれた弾丸のように駆け回った。
一度放たれた弾丸はもう弾装には戻れない。それは俺も同じだった。
もう地下には戻れないし戻りたくもない。
ここが俺の最後の死に場所なのだと自分自身に言い聞かせて、街から街へと彷徨い続ける。
己の強さと偉大さを誇示するかのようにジリジリと照りつける太陽。
かと思えば、駄々をこねた子供が突然泣き出したかのように降り出す夕立。
この季節の理は残酷なくらい確実に俺の体力と寿命を奪っていく。
もうどれくらい捜し回っただろうか。
不毛な縄張り争いのいざこざに巻き込まれたこともあった。
俺と似たような境遇の男に出会い一晩語り明かしたこともあった。
しかし、未だに俺の求める女は見つかっていない。
太陽と月は何度俺の天辺を巡ったのだろう。
日に日に体力が落ちていくのがわかった。
俺に残された時間はもう残り少ない。
ほとほと疲れ果てた俺は、立ち寄った神社の境内で少し休むことにした。
久々にゆっくりと空を見上げると、夕暮れでオレンジ色に染まった西の空は、この世のものとは思えないほど美しく、夕焼けのカーテンが俺の鉛のように重くなった体を包んでいた。
熱帯夜を運んでくるような生暖かい風を受け、目をつぶると、全身の力が抜けていくのを感じる。
俺の寿命もそろそろかもしれない。
この時俺は完全に無防備だったのだ。
疲れた頭からは奴らが俺を狙っていることなどすっぽりと抜け落ちていた。
その時だった。
ガサッ!
奴らは俺が休むところを狙っていたのだ。
「しまった!」と気付いた時にはもうすでに遅し。
細かく格子状に縫われた網が俺の全身を覆う。
網を抜けて飛び立とうと思っても、もう全身に力が入らない。
今の俺にとっては、網とはいえ鉄格子の中にいるのと同じ状況のようだった。
志し半ばのこんなところで奴らに捕まるなんて。
しかし、もう飛び立てないほど憔悴しきった俺にはお似合いの死に場所かも知れない。
死を悟った俺は最後の力を振り絞り、一瞬の閃光のように輝き続けたこの数日間の生きた証を証明するべく最後の咆哮をあげた。
「ミーン、ミンミンミン、ミー」
薄れていく意識の中で、俺は最後に二人の少年の顔を見たのだった。
「お兄ちゃん!セミ捕まえたよ!ほら見て!」
「あれ?動かないじゃん?」
「さっきまで鳴いてたのに。死んじゃったのかな?」
「じゃ、お墓作ってあげようよ!」
「うん、そうしよう!」