ピンポーン
「はい、どちら様?」
「強盗です。玄関のドアを開けてください」
「は?」
「いや、だから、強盗です。開けてください」
「何なのよ?後藤なんて知り合いにいないわよ」
「後藤じゃなくて強盗です、奥さん」
「強盗が自分で強盗ですなんて言う訳ないじゃない!」
「Go toです」
「どこに行くのよ!」
「いや、だから家の中に・・・」
「自分で強盗なんて言っている人を家に上げるわけ無いでしょ!」
「じゃ、物取りです」
「別の言い方してもだめ!」
「じゃ、モノポリーです」
「意味がわからないわよ!」
「じゃ、泥棒です!盗人です!こそ泥です!」
「どんどんランクが下がっていくわね・・・」
「どうしても玄関を開けないつもりですね?」
「そうよ!当たり前じゃない!」
「じゃ、ぶち破りますよ?」
「そんな事したら警察呼びますからね!」
「もう自分自身にうんざりなんです!」
「だからって、うちの玄関のドアをぶち破るのは全然関係ないじゃない!」
「ドアじゃなくて自分の殻をぶち破りたいんです!」
「それこそ他所でやって!」
「殻をぶち破ってピリオドの向こうへ行きたいんです!」
「まずはうちの敷地の向こうへ行って!」
「はは~ん、僕が殻を破って新しい自分に変身するのが怖いんですね?」
「いや、そういうことじゃないでしょ!」
「僕が新しい自分になって、水も滴るいい男になっても惚れないで下さいよ?」
「惚れません」
「いい加減、玄関のドア開けてください。もう限界です。」
「何が限界なのよ?」
「おしっこ漏れそう」
「え?」
「大の大人が他人の家の玄関でお漏らしですよ?それでもいいんですか?」
「いいんですかって、それはこっちのセリフよ!漏らしたくないなら早く帰って!」
「もう諦めます。やっぱり僕には殻を破るのは無理でした。」
「え?」
「何か大きなことやって自信をつければ自分の殻をぶち破れるかなって思ってこんなことしてみたんです」
「犯罪なんてしたって大きなことにならないわよ」
「・・・」
「メディアに取り上げられるのも一瞬だけ。明日になればあなたのことなんて誰も覚えてないんだから」
「はい、そうかもしれません」
「犯罪なんてくだらないことより、あなたにはもっとやれることがあるはずよ」
「それがわかればこんなこと・・・」
「甘ったれるんじゃないわよ!みんなそうやって悩んでいるの!自分だけ被害者面しないでちょうだい!」
「うぅ・・・」
「ちょっときつい言い方しちゃったみたいね」
「いや、嬉しいんです。今までそうやって叱ってもらったことなかったから・・・」
「そう。明日からはこんなくだらない考えを捨ててしっかりと生きなさい」
「うぅ、ありがとうございます」
ジョワジョワジョワ・・・
「何?泣いてるの?」
「いや、泣いてるんじゃないんです。ちょっと・・・」
「ちょっと何よ?」
「玄関に水が滴って・・・」
「水?雨なんて降ってないじゃない」
「話が長いから水が・・・」
「まさか!」
「漏らしちゃいました」
「えー」
「だから、もう限界だって言ったのに・・・」
「でも、これで、殻を破って水も滴る男になれたじゃない」
「こんな滴り方は嫌だ!」
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足もリハビリ中だけど、ネタを書くのもリハビリ中です・・・