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「またくだらないことばっかりして!」は最高の褒め言葉だと思ってます。
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夕暮れ
「あの空が欲しい」
河原に生えている背の低い雑草の上に寝転びながら彼女はそう言った。
隣に座っていた僕がふと見上げたその東の空は
今までに見たこともないほど鮮やかな緑色で
まるでメロンソーダを空一面にこぼしたようだった。
一方、西の空ではハンバーガーのような夕日が無音のまま沈んでいく。
東と西で真っ二つに割れた空の境目には黄金色に光る鴉の群れが
ストロベリーシェイクみたいな雲を追い越しならが飛んでいる。
永遠とも一瞬とも思える夕暮れの時間の中でオレンジ色に包まれる二人の影。
僕は彼女の言葉の真意を確かめようとその言葉を聞き返してみた。
しかし、彼女は何も言わず、起き上がって僕の目を一瞬だけ見つめると
足早にその場を去ってしまったのだった。
彼女に見つめられた瞬間、僕の体は石膏で固められたようにピクリとも動かなくなってしまった。
その時の僕は彼女が土手を上がり遠くに消えていくのをただ見つめることしか出来なかった。
その場を動けずに暫く呆然としていると、どこからともなくチキンナゲットが僕の足元に転がってきた。
河原でキャッチボールをしていた少年達がこちらに向かって何か叫んでいる。
僕はそのチキンナゲットを拾うと、少年達に向かって大きく振りかぶり投げ返してみた。
何だ動くではないか、手も足も。
それなら何故あの時は彼女の後を追えなかったのだろう。
「あの空が欲しい・・・、あの空が欲しい・・・、あの空が・・・」
まだ頭の中で彼女の声がリフレインしている。
きっと彼女はあのことを僕に伝えたかったはずだ。
弱気な僕への彼女なりのメッセージ。
ポップコーンの匂いのする風が一人ぼっちになった影法師の刹那を運んでくる。
周りを見ると河原にはもう誰もいなかった。
キャッチボールをしていた少年達も
遠くでジンジャエールを散歩させていた老人も
さっきまで二人をオレンジ色に照らしていた夕日さえも。
土手の上ではフライドポテトに乗った会社帰りのサラリーマンが疲れた顔をしながら通り過ぎていく。
僕も土手に上がりアップルパイの網目の道路を踏みしめながら家路に向かった。
あたりには穏やかにそしてゆっくりと世界の終わりを告げる夕闇が迫って来ていた。
by earll73 | 2005-05-19 13:00 | アレ散文
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